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入れ歯が合わないのはなぜ?…歯科医の多くは技工士に「丸投げ」

2019.06.15

渡辺勝敏 渡辺専門委員の「しあわせの歯科医療」

 歯を失ってかみ合わせに障害があれば、ブリッジか入れ歯、あるいはインプラントの治療が必要になります。インプラントが盛んに宣伝されていますが、高額な自費治療なので、中高年でも入れているのは2~4%程度でそれほど多くはありません。一方、入れ歯は70歳前後になると半数近く、80歳を超えると8割の方の口に入っています。多くの人にとって入れ歯は“人生後半の友”です。

 ところが、「かめない」「外れる」「痛い」「しゃべりにくい」と不満の声があふれています。最近、部分入れ歯を作った同僚は「痛いから」と言って使っていません。総入れ歯になると、ガタついてちゃんとしゃべれないから、人前に出にくいという話も聞きます。もちろん快適に入れ歯を使っている方も大勢いると思いますが、不満の声も多い入れ歯。どうして入れ歯を快適に使えないのでしょうか?

入れ歯「名人」の仕事とは

 その問いの答えを見つけようと、かぶせ物や入れ歯などの研究を専門にする日本補綴(ほてつ)歯科学会に「入れ歯の名人を紹介してほしい」とお願いして、都内のベテラン歯科医を取材したことがあります。1、2回通って入れ歯ができて、完成すればピタリと合うという歯科医をイメージしませんか。ところが専門医が認める「名人」は、それとは大違いでした。

 この歯科医にかかった70歳代の男性患者は、歯周病のため60歳代で歯を次々と失い、上下ともに数本が残るだけで、入れ歯を使っていました。入れ歯安定剤を使わないと落ち着かないし、硬いものをかめばずれ、しゃべると外れることもありました。それまで7、8個の入れ歯を作りましたが、割れてしまったものもあり、入れ歯は悩みの種でした。

精密な型取り、かみ合わせ作り、完成後の調整が3要素

 入れ歯作りは、歯の精密な型取り、的確なかみ合わせ作り、出来てからの調整が三つの重要な要素と言います。男性患者は、歯の型を取って、入れ歯の模型を作って、実際に口の中で合うかどうか確かめる作業を経て入れ歯の形を決めるまでに5回通院しました。

 ご存じの通り、型を取る材料(寒天やシリコン)をトレイという歯の形に似せたプレートに載せて、かんで型を取ります。これで型取りを終える場合もありますが、精密な入れ歯を作るには、既成のトレイではなく、最初に取った歯型を基に、その人の歯並びに合わせた個人用のトレイを作ってから、再度患者の歯型を取ります。個人用トレイ作りも保険の対象ですが、倍の手間と時間がかかります。

 歯科技工士は、こうして取った型から石こうの歯型を作成。歯科医の指示を受けて、ロウで歯茎を作り、その上に人工の歯を並べて、入れ歯の模型を作ります。咬合(こうごう)器という器具に模型を装着してかみ合わせを確認。形が決まると、歯科技工士がロウを樹脂のレジンに置き換えて製作して出来上がりというのがだいたいの流れです。

 そして「名人」いわく、「入れ歯が完成した段階じゃ合わなくて当たり前、調整して使いやすくします」。歯茎に痛みや違和感がないよう削って調整しては、使って試し、さらに調整という作業を繰り返して、この男性はなんと9回通ったということでした。初診から調整が済むまで5か月がかり。「何度も通うのは大変でしたね。でも、正月にお餅まで食べられるようになったんですから、この入れ歯で人生が変わりました」と喜んでいました。

 これほどの多くの回数を通う患者ばかりではないそうですが、調整には手間がかかり、ていねいに手順を踏むと、患者の方も何度も通う根気が必要なことは理解できました。

入れ歯作りは、2、3回の通院では終わらない

 「入れ歯作りは2、3回通って終わりではないことを、患者さんに理解していただきたい」と言うのは、日本補綴歯科学会副理事長で日本歯科大教授の志賀博さんです。「口の動きを見ながら、個人トレイを作ってていねいに型を取る。それをもとに模型でかみ合わせを確かめて入れ歯を作る。それでも口に入れると当たるところが出たりするので、口の動きに合わせた調整が必要」と言います。

 そのうえで、「新しい入れ歯はどうしても違和感が出るので、なれるには2か月ぐらいかかります。当初1か月は毎週のように調整が必要で、その後も歯茎の状態は変化するので、3か月に1度ぐらいは調整のために受診していただきたい」と志賀さんは話しています。お口の掃除や歯周病の管理に定期受診は欠かせませんが、入れ歯を快適に使うにも定期受診による管理が必要ということでした。

調整の診療報酬は低く、患者は何度も通うのは面倒

 大学では入れ歯作りや管理についてこのように教育しているそうですが、多くの開業歯科医の感覚とはズレがありそうです。

 「型、かみ合わせ、調整の三つがきちんとできていないと、いい入れ歯はできません。でも、患者さんは何度も通うのを嫌がるし、調整は時間がかかる割に収入になりません。完成したら、『入れ歯はこんなもんですよ』と言って、合わせて終わり。何か不都合があれば来てもらうという感じですね」とベテラン歯科医は話していました。

 そしてこうも言います。「何度も調整をやっている先生は熱意があるんでしょうけど、保険だと入れ歯自体の報酬も高くはないし、調整は時間がかかる割に報酬が低い。自費の場合だって手間のかかる調整は手早く終わらせたいですよ」

 保険には、「新製有床義歯管理料」2100円前後(装着月1回のみ請求可、患者負担は3割)や「歯科口腔(こうくう)リハビリテーション料」1140円前後(月1回、同)など入れ歯の調整に関連する項目があります。

 開業歯科医の本音はこうなのかもしれません。かくして、それなりに合う入れ歯ができた人はハッピーですが、今ひとつ合わない人は、諦めを感じつつ何度も作り直し、入れ歯安定剤をたっぷり使ってごまかしながら使うことになりそうです。

入れ歯の設計は、歯科技工士に丸投げ

 入れ歯作りの現場を見てみようと歯科技工所を訪れると、入れ歯の現実がもう少しよく見えてきました。入れ歯の設計図は、技工指示書という書面で歯科医が歯科技工士に示すことになっています。残っている歯の本数やかみ合わせは人それぞれなので、土台をどのような形にして、固定する金属をどこに引っ掛けるかといった判断は難しそうです。ところが、歯科医から送られてきた技工指示書の束を見せてもらうと、中には留意点が書かれたものもありますが、何も書かれていないものがほとんどなのです。

 「どういうことですか?」と歯科技工士に尋ねると、「歯科医は歯型を送ってくるだけで、入れ歯の設計は歯科技巧士に丸投げなんですよ」。

 「『印象』(歯の型のこと)を見ると、この臼歯は歯茎が下がっているから、ここに金具をかけると歯が傷んでしまうので、ほかの歯で支えるようにしなきゃ……」などと歯科技工士がデザインに知恵を絞っていました。

入れ歯には経験が問われる

 前出のベテラン歯科医は、「歯科技工士たちはよくわかっているから、歯型を見れば、どういう形がいいか考えて上手に作ってくれますよ。信頼できる技工士と付き合っていれば大丈夫」と話しています。これが入れ歯作りの実際のようです。

 それで問題はないのでしょうか。

 こんな歯科医と会いました。開業して13年の中堅の歯科医は、「今まで型を取って送るだけで、技工士さん任せでした。でも、自分で設計ができないと、技工士さんに的確な指示ができないし、なぜこういう形になっているか患者さんにも説明できませんから」と、一念発起して歯科技工士が主催する入れ歯設計の講習会に参加して勉強したそうです。

 開業歯科医のほとんどは、一般歯科として、虫歯の治療から歯周病の管理、入れ歯作りまで行っています。しかし現実には、分野によって得手、不得手があります。入れ歯は経験が問われる要素も多く、意欲や経験のある歯科医でないと、歯科技工士任せになってしまうのかもしれません。

歯の型がきちんと取れていないことも

 さらに歯科技工士からはこんなぼやきも聞こえてきます。「こちらに届いた『印象』(型)がちゃんとしていればいいんですが、ひずんでいたり、歯茎の奥の方がきちんととれていなかったりすることもあるんです。私たちは型を基に作りますから、これじゃピタリと合う入れ歯は作れませんよ」

 歯科技工士は、歯科医から見れば下請け。「先生、『印象』がゆがんでいるので取り直してください」とは言いにくい立場です。口の中に入れても大きな問題を招かないよう工夫をして入れ歯を作って歯科医の元に送ることになりますが、いい入れ歯にはなりにくいでしょう。歯科技工士たちの話を聞いていると、型がきちんと取れていないケースは珍しいことではないようです。

 歯の型がきちんと取れていない、入れ歯の設計がよくわからない、丁寧な調整をしない――入れ歯作りの3本柱のどこかに不十分なところがあると、患者が快適な入れ歯を手に入れるのは難しいかもしれません。

咀嚼能力検査をすれば、入れ歯でかめているかどうかわかる

 実は保険には、入れ歯でちゃんとかめているかどうか調べる検査(1400円、患者負担3割)があります。グミを20秒間かんで溶け出した糖の量を計測します。検査の結果、あまりかめていないことがわかったら対応が必要になるので、歯科医にとっては厄介な検査かもしれません。逆にこの検査で確かめようという歯科医は、治療に責任感を持っているということでしょう。先ほど紹介した名人は、咀嚼(そしゃく)能力検査をやって、入れ歯の出来栄えを確かめていました。

 うまくかめていないと感じている人は、歯科で検査を受けてみてはいかがでしょうか。

入れ歯に「満足」は45%

 国民生活センターが今年1月に実施したインターネット調査によると、歯を失った時の治療の満足度は、インプラントが85%と最も高く、次がブリッジ60%、入れ歯は45%と半分以下でした。入れ歯は異物感があるだけに、一段下がるのはいたしかたがない面もありますが、“人生後半の友”への満足度としては残念な数字です。

入れ歯はできたら終わりではなく、使い慣れることと、歯科でのていねいな調整、定期受診によるメンテナンスが肝心と理解しておきたいですね。そして患者としては入れ歯に熱意のある歯科医を見つけたいところです。

 日本補綴歯科学会は 専門医制度 を設けて名簿を公開しています。以前、読売新聞でこの学会の専門医制度を紹介したところ、大きな反響があり、「おかげで合う入れ歯ができた」という喜びの声が届きましたが、一方で「期待はずれだった」という声も。患者の口の状態や期待値、歯科医の診療方針もそれぞれで、みんなが満足というわけにはいかないかもしれませんが、少なくとも、この分野で経験のある歯科医の集団であることは確か。もし困っているなら、歯科医選びの検討材料のひとつと考えてください。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190614-00010001-yomidr-sctch&p=4

より転載

入れ歯ってあっという間にできるイメージがあるかもしれませんが実は大変なんです。詰め物やブリッジの方がまだ手間かかりません。

当医院では入れ歯は入れ歯専門の技工所に出してコラボしながら入れ歯を作成しています。手順も型をとって終わりではなく 仮義歯まできちんと入れてみるので通院回数もかかってしまいます。

でも通院回数かかる分よい入れ歯ができるんだと思っています。

 

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