病態モデルマウスを用いてアミロイドβ発現を分析
九州大学は11月14日、ヒトの歯周組織および歯周病原因菌とされる「ジンジバリス菌」(Pg菌)を全身に慢性投与したマウスの肝臓において、脳内老人斑成分であるアミロイド βが産生されていることを初めて発見したと発表した。これは同大大学院歯学研究院の武 洲准教授と倪 軍軍(ニイ ジュンジュン)助教の研究グループが、中国の吉林大学口腔医学院の周延民(シュウ エンミン)教授、同大の聂 然(ニー ラン)大学院生らとの共同研究によるもの。国際学術誌のオンラインジャーナル「Journal of Alzheimer’s Disease」に掲載されている。
画像はリリースより
認知症の7割を占めるアルツハイマー型認知症には根本的な治療法がなく、社会や財政にとって大きな負担となっている。アルツハイマー型認知症の脳内病態は、ミクログリア活性化に伴う脳内炎症と、蓄積したアミロイドβ(以下、Aβ)老人斑との相互作用で脳神経細胞が傷害され、認知機能が低下すると考えられている。一方、慢性全身炎症は、年齢依存した脳内炎症を誘発し、認知機能低下を促進することが示されている。欧米での臨床研究により、歯周病の罹患と認知機能低下との正相関、Pg菌成分のアルツハイマー型認知症患者の脳での検出が報告され、アルツハイマー型認知症への歯周病の関与メカニズム解明が注目を集めている。
研究グループは2年前に、Pg菌成分LPSを全身投与した中年マウスが、カテプシンB依存した脳内炎症、Aβ産生・蓄積ならびに学習・記憶能低下というアルツハイマー型認知症様脳内病態を引き起こすことを突き止めている。歯周病は口腔慢性炎症として糖尿病などの全身炎症を引き起こすため、歯周病により惹起された全身炎症が、脳内病態のAβ蓄積にも寄与するのではないかと推察。また、肝臓は代謝をはじめとした生命を維持する上で必須の機能を数多く担う体内最大の臓器であり、脳内で産生されたAβは脳血液脳関門を介して血液に運搬され肝臓で代謝されることが知られている。そこで研究グループは、歯周病患者の歯周組織およびPg菌を全身投与した中年マウス肝臓を用いて、歯周病により惹起されるそれぞれの炎症組織におけるAβ発現について解析を行った。
歯周病菌により肝臓における炎症を起こしたマクロファージがAβを産生
研究グループはまず、歯周病患者の歯周組織を解析。アルツハイマー型認知症における脳内特異的な病態の老人斑主成分であるAβ(Aβ1-42とAβ3-42)が歯周組織のマクロファージに局在していることがわかった。続いて、Pg菌を中年マウスの肝臓に3週間腹内投与し、解析。「IL-1β」(炎症反応に関与する起炎性物質)を発現したマクロファージにAβ1-42とAβ3-42の誘発が認められた。さらに、この中年マウスの肝臓におけるAβ代謝を解析。結果、Aβ代謝酵素(Neprilysin, Insulin-degrading enzyme and Angiotensin-convertingenzyme)には影響を与えず、Aβ産生酵素(カテプシンB)を著しく増大させることがわかった。
これは、Pg菌に感染したマウス肝臓では、炎症性マクロファージからAβが産生される可能性が示唆。その可能性をもとに、さらに培養マクロファージを用いて解析したところ、Pg菌に感染したマクロファージでは、IL-1βとAβの産生が誘導され、Aβの貪食能力が著しく低下していたことがわかった。一方、カテプシンB特異的阻害剤はPg菌感染により増加したIL-1βおよびAβ産生を有意に抑制し、低下したAβ貪食能力を大幅に改善した。
これらのことから、慢性Pg菌感染した歯周組織をはじめ、全身炎症を起こしたマクロファージはカテプシンBに依存したAβリソースとなり、アルツハイマー型認知症の脳内病態に寄与することが考えられる。先行研究の知見と今回の発見により、カテプシンBは歯周病によるアルツハイマー型認知症の誘発ならびに病態進行を遅らせる新しい治療標的になる可能性もある。「ヒト歯周病の歯茎からアルツハイマー型認知症の脳内老人斑成分が産生されることに大変驚いた。アルツハイマー型認知症の予防に口腔ケアはとても重要」と、研究グループは述べている。
http://www.qlifepro.com/news/20191118/amyloid-beta.html?fbclid=IwAR0o1b8kd0yjooOoGMa7Up6vIqrGQlDmS9x_98-XZssOSIyn1zUgF1ZXg4I
統計学的にはアルツハイマーと歯周病との関連は立証されていましたがなかなかその機序については関連が立証なかなかされていませんでした。そのなかで今回の九州大学の研究はかなり画期的であると思います。